ビジネスウェルネス倶楽部Business Welness Club

「社員の市場価値」という言葉に愕然とする部長の憂鬱

 「参ったよ・・・」と私の顔を見るなり、人材開発部門のA部長が重苦しい声で。

 研修報告に伺っただけの当方としては、部長のご様子にびっくり。A部長の口癖は「うちの若手はなんとかやっていくと思うんだよ」といつも楽観的というか、信頼をしているというか、曖昧ではありますが明るい将来感をもった方でした。

 A部長はエレベーターホールで待っているときに、入社5年目のYさんに「4月に市場に出る製品のプロジェクトはかなり上手く進んでいるようだ。
君の部署の来季の実績は上がりそうだぞ」と何気なく声をかけたのだそうです。

 すると彼は何も反応せずに、エレベーターを降りたところで、「そういう情報って、どうして、全社員に共有されないんですかね。いつでも上層部とか、部長とか、という限定がありますよね。この会社の情報はネットワークの意味を理解していませんよ」とぶつぶつ。

 それから1か月たった昨日、彼から退職願いが出されたというのです。その理由が「会社の指示を受けたことだけを何も考えずに仕事として受け入れていたら、自分の社内価値は上がるかもしれませんが、自分の市場価値は下がるだけです。

 市場価値の高い社員がいないのですから、その会社に将来を託しても時間の無駄遣いのような気がします。市場価値の高いビジネスパーソンと呼ばれるレベルになりたいのです。会社に一生お世話になるような時代ではありませんから」とのこと。

 A部長は「社員の市場価値」という言葉の意味が理解できない、としきりにぼやいていました。「こんなことを考えていたら、サラリーマンは勤まらないよ」とも。

 私としてはなんとも言いづらい空気がありました。喉まで「終身雇用や年功序列という日本的な仕組みが壊れた時代に、サラリーマンという言葉も相応しくないのでは?社員をビジネスパーソンと捉えることが必要な時代では」という言葉が出かかっていました。

 「そんなことをしたら会社では生きていけない」という言葉も遠い時代の言葉のようにさえ感じます。若い社員は、みんながみんな彼と同じように思っているわけではありません。ですが、動き出していることは事実です。

 サラリーマンとビジネスパーソンの違いは、ビジネスパーソンにはサラリーマン+フリーランス+個人事業所+女性、という意味が含まれていることにあります。
ビジネスで生きていくためのスタイルを選択ができるということです。

 自分の市場価値を高めるということは、ビジネスパーソンとして自己成長に集中し、自発的に行動を起こしていくことが必要です。そこには、上司の指示や命令は大きな意味をもちません。

 基本にあるのは、自分が考え抜いて選択した「正しいビジョン・信念」です。
そして、それに基づいて「自己変革に集中できる責任能力」や、今、自分が何をすべきかを選択できる「最適選択能力」を高めていくことが、セルフリーダーシップなのです。
 
 私も起業を決意する時期に、アメリカのビジネススクール出身の友人から「セルフリーダーシップは得意だが、セルフマネジメントは機能していないわね」と言われたことがあります。

 簡単に言えば、正しいビジョンはあるが、正しい行動力が甘い、ということです。感情的な部分を指摘されたのだと思います(笑)。

 ビジネススクールでは、セルフマネジメントとセルフリーダーシップは必須なのだそうです。日本では会社の指示命令を基本としたセルフマネジメントを要求されている、とも言っていました。

 こんな話をA部長に話したところ、「まぁ、会社も社員の人生を背負いきれるだけの将来性があるかといえば、5年後、10年後のことだって、不透明ではあるよね。トヨタの社長が100年後のためにウーバーに出資したり、ソフトバンクと提携するのだから」と。

 さらに「そういう時代に生きていく社員をビジネスパーソンという目線で見ることができるようにならないといけないんだよね」とも。

 「市場価値か・・」とため息をつく部長とコーヒーブレイクをご一緒しました.
「部長、セルフリーダーシップは年齢に関係なく必要な能力ですよ」と声をかけさせていただくと、「人生100年時代だから、まだ半分だし、必要だね」と明るい笑顔が戻りました。お目にかかれてよかった、と思いながら席を立った秋の1日でした。

 セルフリーダーシップ教育は、走り出す社員に企業のベクトルと個人の成長ベクトルを合致させるという視点を取り入れることで、企業の成長を創り出す人材育成手法です。

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