突然の異動だったとファブリック製品ブランドの35歳の課長は話してくれました。
全身から疲労が漂っています。彼は、入社以来、百貨店や大型スーパー、量販店への営業を担当してきました。同期の中でも評価が高く、35歳という若さで課長に。
研修で出会ったのは、新任課長の研修でした。
彼が苦しんでいたのは、「企画ができない」ということ。研修の発表でもアイデアはあるのですが、構造図が描けない、という感じでした。そのアイデアも「今までの仕事であれば活かせる」という内容。ですが、そのことは、受講していたほとんどの受講生に共通していたことでもあります。
彼の会社は大手企業と提携したことにより、製品開発にしても、販路開発にしても新しい手法が必要な状況でした。そのことも彼は理解していました。ですが、異質な仕事をする企業との提携は、何をするにしても「今までの発想は捨てて欲しい」と言われるばかり。
さらに追い打ちをかけたのは、入社3年目あたりの若手が、自分が理解できない提携企業の要求をあっさりと読解できていたことでもあります。頭が柔らかいからでしょうね。
その年の数字づくりならば得意な若手課長としては、3年後のために今、何をするのか、そのために何を変えるのか、となると冷や汗がタラリ。
そのうえ、上司に相談しても「俺だってわからないよ、やったことないからな。
だから君を課長にしたんだよ」と言われるばかり。部下は、課長に聞いても返事が曖昧だと感じ始めていました。次第に、彼はクリエイティブな発想を持たなくてはと思い込むようになっていました。
そこで研修で、クリエイティブになるとはどういうことなのか、という基本部分から、収束的思考と拡散的思考の違いと使い分けを理解してもらいました。そのうえで、なぜ、今の状況を打破できないのか、という分析と解決策の検討をロジカル(収束的思考)に行うことにしました。ポストイットやカードなどを使うベーシックな方法で進めました。
とにかく、ロジカルになること、「変えることを仕事にすること」が必要だというのが講師の判断。
研修後のアンケートに「どうして、海外の有名な会社では、会議机の真ん中にディスプレイがあって、その画面に出ているカードを動かしながら話しているのかがわかりました。今まで、ワークとか、こういうカードで検討するとかということを馬鹿にしていました。仕事のできる人は、頭の中で考えればそのくらいのことはできる、と思っていました。
ですがそれは、『はじめて』に挑む仕事ではなかったからだと理解しました。課長になったということは、会社にとって初めての道を創り上げていくということだと認識しました」と彼は書いていました。
最近、37歳になった彼と久しぶりに会いました。ネクタイもスーツも靴もセンスアップ。
この2年間、提携した会社の内部に入らせていただき、プロジェクトの1メンバーとして多くの経験をしたそうです。そこで学んだアイデアのまとめ方や面白い発想が出やすい会議の進め方などを自社に取り入れたそうです。
「変えることを仕事にすると決めました。はじめてに挑むのが自分の仕事だと思っています。
ZERO発想の意味もわかるようになりました。秋の新作を楽しみにしてください。
自分のチームの力作です」と彼からメールが届きました。
未来を創り始めた姿がその文面から伝わってきます。うれしいですね。