メーカー系企業で法人営業の研修をしていたときのことです。2グループに分かれて、セールスコミュニケーションとプレゼン提案の講座が展開されていました。当方は、セールスコミュニケーション、概ねは提案営業を内容とする部分を担当。
2日間研修の1日目の後半、型どおりの深掘り質問はできるが、相手の発言を受容したうえで展開する、というスキルが上手くハマらず、講師は苦戦しておりました。
相手の話に共感を示すことや、言葉の中から展開していく「つなぎ」が上手くできず、想定以上に時間をかけることになりました。こういう時こそ、講師の実力が問われます!
休憩時間中に思わぬ言葉を受講者から聞いたのです。「プレゼン提案講座は、楽しいらしいぞ。パワーポイント講座みたいだってさ。優位性訴求はどうせ決まっているから、後は見せ方だけだからな」とのこと。
講師としては、驚くばかりでした。おそらく担当講師はそういう指導をしていたわけではないと思います。他社の講師の方とはいえ、お気の毒な話です。
何に驚いたのかといえば、「優位性訴求はどうせ決まっている」という言い方です。
確かにメーカー系企業にとって、プレゼンはいつも同じ顔ぶれで戦っているのでしょう。
しかも「優位性」とはいっても、得意分野が各社にあり、それぞれの強みをお互いが知ったうえで、価格競争になるのでしょう。
だとしたら、このプレゼン提案講座はやはりパワーポイント作成講座、ということになります。この研修の到達点はどこにあるのだろうか?と他社の講座ながら、気になってしまいました。同時に、当方が担当している講座が、思うような成果にたどりついていない理由がここにあると気づきました。
ある受講者に、「営業をしていて、相手が数字や定番の優位性以外を求めていることに気づいたときは、どのように展開していきますか?」と尋ねたところ、とにかくよく話を聴いて、「持ち帰ります」と伝えて辞去するとのことでした。
さらに「とにかく話をよく聴く、というのは、どういうことをするの?」と訊くと、「相槌を打って、メモをとります」とのこと。これでは、隣の研修室の講師も苦労していることでしょう。
営業研修の基本として学んだこととしては、何も間違いではないのです。自社の優位性を説明し、お客様にとっては自社が必要だということをアピールすることは、間違いではないのです。
ですが、競合他社も同じことをします。だから、決定的な勝ちをつかむ経験をすることができないのでしょうね。
「自社に持ち帰る、ということは、自社には用意が無い提案を求められているということですよね。そのことは、うれしいと感じますか?」と尋ねると、答えは「わからない」「あまり実現性が無い提案に時間をかけることはしたくない」でした。
ここなのですよね。実現性がどの程度のことなのかを調べてみよう、とはしないのです。
新しい提案を1つでもいいから、自分の手で作り上げてみたい、という気持ちにならないことが問題なのです。このことを話すと、受講者は憮然とした表情になっていました。
ですが、「みなさんの口から出る説明は、誰でも知り得る情報になることは当然ですよね。
情報提供というのは、あまり効力をもたなくなります。しかも金額だけの競争であれば電子入札で終わってしまうことです。では、クライアントは何をあなたにして欲しいのでしょうか?」と問いかけました。答えはなかなか出ません。
営業にも当然、効率や生産性が重視されます。ですが、これだけ情報入手が簡単な時代になると、効率や生産性を高める論理だけでは実績はつくれません。
AIには勝てませんから。せっかく人と向き合うのですから、「情緒」というものが必要になります。それをどのような形で表現していくのかが、営業での肝になります。
つまり、情緒によって、想定外の面白いアイデアを顧客と共に創り上げていくということです。
こう説明したところ、「AI」という言葉が心に響いたのか、受講者の表情に変化があらわれました。営業職とは、モノを売ることから、顧客のしたいことを創り上げることだという理解ができたのかもしれません。
人材育成研修では、AI時代を理解した「人の力」を磨く研修教育が必要となりますね。
セルフリーダーシップ教育は、この観点から、重要な教育であると思います。